世紀の潮よるところ

●沖縄県立糸満高等学校創立60周年記念誌「世紀の潮よるところ」
編集・発行 糸満高等学校創立60周年記念期成事業会 非売品

 沖縄は全国的に見ても出版が盛んな地域といえる。年間200冊から300冊近い本が出版されているので、驚く人が多い。ただし、この出版点数は公式なものではない。本当にありとあらゆる所から本は出版されているので、出版点数を調べることが不可能なのだ。その詳細は、当ホームページの「いっしゅん堂本舗」にて書くつもりなので、ここでは細かく書かないが、出版が多いというのは誰でもが認める事実といえるだろう。

 端的に言うと、沖縄の出版とは『自費出版文化』だと私は思っているのだが、実際、沖縄における自費出版のレベルは全国レベルで見ても高いと思う。特に、地域史と呼ばれる市町村誌の充実ぶりは目を惹くものがある。中でも、字誌や学校などの記念誌はさまざまな趣向が凝らされており、ビジュアル的にも工夫をされている本が多い。

 今回紹介する沖縄県立糸満高等学校創立60周年記念誌「世紀の潮よるところ」は、その中でも出色の出来だ。まず、グラビア。最初は普通によく展開される校舎や歴代学校長、PTA会長などの顔写真、それと記念式典・祝賀会のスナップ写真などが掲載されているが、そのあとが凄い。なんと、1期生から60期生までの卒業証書がすべての期にわたって掲載されているのだ。その数63枚。簡単に1期生から60期生までの証書と書いたが、全ての期を集めてきた編集委員長の熱意は敬服に値すると思う。だって、60年間の卒業生全てに編集方針を理解してもらって借用しているのだ。その編集委員長は、現在50代後半。上は20以上、下は30以上の年の差がある。その時間と労力は並大抵のものではなかったと思わざるを得ない。また、その卒業証書から見えてくる歴史的背景もある。それもしっかりと「卒業証書の変遷」という項目で解説されている。

 他にも、設置者の変遷も読み応えがある。ご周知のように、沖縄は、沖縄戦によって、米軍の施政権下に置かれ、1972年日本復帰を果たした。その間、学校の設置者が変わっていることを、前述した卒業証書や辞令書によってきちんと年代までをも明らかにしている。例えば、糸満高校の最初は設置者の明記がない。これによって、糸満地区立という、独自の名称を編者は命名しているのだが、それも、以後の設置者がしっかりと証書に明記されていることから許されることがわかる。ちなみに、地区立移行は、「沖縄民生府立」「糸満高等学校連合教育区立」「糸満連合教育区立」「琉球政府立」となって、現在の「沖縄県立」に移管している。高校といえば、私立か県立しかない現在、その変遷から見る沖縄戦後史は研究の余地があるともいえるだろう。

 また、今では帽子を被っている生徒は、運動系の生徒しかいないので、わかりづらいが、かつては校章も学校の誇りであった。その変遷も写真と解説入りで掲載されている。それを読むと、最初は生徒自身のデザインで、米軍の軍服から作ったもの。それから現在は4回目のものだということが理解できる内容となっている。他にも、制服の変遷も写真解説付きで掲載。これら、なにも考えなければ見落としがちなものにも、しっかりと目を行き届かせて解説している。それは、写真を発掘していく中での検証から生まれたものだと思うが、写真を貸す人にも借りる人にも、学校への愛情がなければわからないことであっただろう。これだけでも本書の独自性や優れものぶりが理解してもらえると思う。

 そして、本書を位置づける最大の特長といえば、卒業者名簿と職員名簿の充実。これも、何と1期生から60期生までの全ての名簿が掲載されている。これまできちんとした卒業生名簿がPTAや同窓会によって作成されている学校は別だが、これほどまでの名簿を調べて掲載されている記念誌を私は見たことがない。多分、沖縄県内の方でも、これだけの長い期間に亘っての名簿がきちんと掲載されているのを見た人はいないだろう。

 このように、しっかりとした事実をきちんと掌握し、確認した上で発刊された記念誌。これから記念誌を発行しようと計画している学校や地域の方々には非常に参考になる本といえよう。

 しかし、本書のような内容の高いものを作り上げるためには、担当者のレベルは勿論のこと、時間と労力、こだわりがなければ編集できるものではなかっただろう。その意味では、知念高校と並ぶ南部の雄としての自負心と、60年間で培った人材の豊富さを伺うことができる。また、糸満市地区という地域性も抜きにしては語ることはできないだろうし、何よりも、母校への愛情がなければ完成しなかった記念誌だと思うのである。それは、編集者が、これまで地域史の編集に携わったことによるノウハウがきちんと生かされているように思う。「糸満市史別巻 写真資料 写真と年表に見る糸満市の現代の歩み」をベースに、多くの地域資料を参照して、その成果を確実に活かしているように思える好著である。

 本書を手に、さまざまな年代の卒業生や関係者が自分の名前や友人知人の名前を探し、歓談している様子が目に浮かぶような本でもある。
(06年6月23日)