加奈子メモリアル 愛の一雫

●加奈子メモリアル 愛の一雫
大湾加奈子・大湾由美子著 沖縄時事出版刊 定価1500円(税込)

 大切な人を思うとき、あなたの大切な人って誰ですか? そして、どんな人ですか?即座にある人の画像が浮かんでくる人もいるだろう。急に聴かれても困ってしまうと思う人もいるだろう。しかし、その人が急に亡くなってしまったら……。この世の中から消えてしまったら、どうするだろう。深い悲しみ、喪失感、いろいろあると思う。

 私は、母が亡くなったとき、悲しみというよりも、喪失感や寂寞とした感覚に陥ってしまった。いつも座っていた場所に、母がいないという事実を受け止めるのに時間がかかってしまった。悲しみが襲ってきたのは、その後だった……。人は生きている限り、悲しみや楽しみとは無縁ではいられない。できるなら悲しみは来ないほうがいいのだが、それでもやってくるのが悲しみだと思う。

 本書は、そんな母の喪失感や悲しみが全編に溢れている本である。しかし、主人公である加奈子さんの病気のことや、亡くなったことは書かれていない。紙面に描かれているのは、元気な加奈子さんであり、しっかり者の加奈子さんであり、友人から好かれていた加奈子さんであり、幼かったころの加奈子さんである。そこには、たくさんの加奈子さんでいっぱい。だからこそ、母大湾由美子さんの悲しみや喪失感を強く感じるのであろう。

 子どもは、いつも可愛いものではない。憎たらしくなることもあれば、あきれ果ててしまうこともある。自分の育て方を後悔することもある。それでも子どもは可愛いもの。無償の愛。それが、親が子に感じるものだと思う。

 本書は、遺稿集ではない。ことさらに病魔に耐える主人公を描いているわけでもない。いつもそばにいて、すぐ話しかけてくるような加奈子さん。生まれたときから、大学に入学するまでの加奈子さんしか描かれていない。それだけしか語られていない。全力で駆け抜けた加奈子さん。それを温かく見守る家族や友人、学校の先生たちや地域の方々。今でも由美子さんの中で、加奈子さんは生き続けているんだと思う。淡々とした悲しみ。そんな悲しさが実際にあることを知らせてくれる。そんなことを思わせる本だ。私たちにとって大切な人は誰なのか。じっくり考えてみるのもいいかもしれない。涙が溢れてくるばかりが悲しさではない。
(06年9月11日)

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