立腹のススメ

●立腹のススメ
宮良長和/著 宮良長和著作集刊行委員会/発行 沖縄タイムス社/発売 四六判 952円+税

 昔は、どこにでも怖いオジイがいた。子どもたちが悪さ(といっても、今から思えば可愛いもんだが)をすると、顔を真っ赤にして、「クヌ ヤナワラバーターヤ」といって、追いかけられたりした。頭から湯気が出てるんじゃないかと思うほどだった。怖かった。でも、オジイとのバトルが子ども達にとっての楽しみでもあった。そんなオジイも、何もしなければ非常に優しいオジイであった。でも、近寄りがたい雰囲気を持っていた。

 オジイと子ども達とのバトルは、幾世代の子ども達へと引き継がれ、かつての悪ガキが、年下の悪ガキに向かって「えー、お前達、あのオジイを怒らせるなよ。本当は人情持ちやんどー」などと説教をする姿を見ることもあった。最近、子どもは怒ってはいけない、叱るのが本当の愛情だ、なんていう人がいる。勿論、それは正しい。感情にまかせて一方的に怒っちゃいけない。でも、でもですよ、昔のオジイたちはやたら怒ってばかりいたが、決して愛情がなかったわけではない。年長者として、怒るべきところをきちんと怒っていただけだと思う。あの怒りを浴びて、私たちは地域共同体の一員としての知識を身につけていったのだと思う。怒りは必要だと思う。ただ、中途半端な怒りはいけない。真っ当に、誠心誠意、一所懸命怒らないといけない。と思う。しかし、そんなオジイが少なくなった。私自身、そんなオジイになりたいとは思うが、決してなれないだろうと思う。

 本書に、そんなオジイの姿を見た。懐かしい昔気質のオジイの登場という感じがした。オジイといっては失礼だと思うが、そう言わずにはおれない雰囲気を著者の宮良さんは持っている。でも、そんなことを言ったら、「何を言ってるんだ!」と怒られそうな気がするが…。本書の中の宮良さん、冒頭の『おのぼりさんの見たヨーロッパ』から、独自の怒り・ひねくれ・偏屈の世界に引きずり込んでいく。フムフムと、納得したかのような表情でガイドさんの説明を聞いている宮良さんが目に浮かぶ。口を真一文字に結び、背筋をピンと伸ばして、ヨーロッパの古い街並みを歩く宮良さんの姿を想像させる。毅然として、古武士然とした宮良さんとヨーロッパの伝統と融け合っているような感じが思い浮かぶ(但し、ここに書いた宮良さん像はあくまでも私の想像です)。

 しかし、素直に感動しつつも、ひねくれたことを考えてしまう宮良さんの姿もある。そのギャップが非常に面白いし、ついつい笑みが浮かんでくる。宮良さんらしいユーモアの世界が、本書の中には満ち溢れている。この紀行文だけでなく、本書の中の宮良さんは縦横無尽である。石垣、沖縄、日本を斬り、人間を見事なまでに分析していく。世の中の常識といわれるものに反論し、宮良流の切り口で持論を展開していき、博識ぶりを開陳していく。「ははは」と笑う世界ではなく、「ふふふ」と辺りを見回しながら、思わず笑みが浮かんでしまうような世界なのである。

 奥付をみると、宮良さんは1926年生まれ。大正15年である。大正ロマンの時代である(きな臭い時代に突入しつつあったとはいえ、名残は絶対にあったと思う)。その時代と、歯医者さんであり石垣という土地が宮良さんを創り出したのだと思う。お会いして、いろいろなことをお伺いしたいと思う方である。でも、いっぱい叱られるだろうな。怒られるだろうな。それを味わってみたいとも思う。本書を読んで、私も、物わかりのよいおじさんではなく、怒るべきところでは怒り、批判すべきところは批判するよう改めていきたいなと思った。素敵な頑固じいさんに会える本。それが本書「立腹のススメ」である。読後感の爽やかな本である。
(06年11月30日)

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