2011年 年末回顧

 今年、刊行された沖縄本は約二七〇点。昨年より多少減少しているが、印象に残る好著が多かったのが今年の特徴といえるだろう。

 そんな中、私が今年一番の県産本と評価したのが前新透「竹富方言辞典」(南山舎)。収録語が約一七七〇〇〇語という大著で、二〇数年の歳月をかけて完成した本書は詳細な記述内容はもちろんのこと、琉球古語や石垣方言・首里方言との比較検討の他、カタカナ表記や活字の大きさ、大和語からの逆引きなどの編集上の工夫もあり、これまでの辞典にない読ませる要素を持っている。まさしく小さな竹富島から生まれた大きな書籍といえよう。このような書が石垣の南山舎という小出版社から発刊されたことも評価すべきだと思う。

 そして安渓遊地・当山昌直「奄美沖縄 環境史資料集成」(南方新社)も、今年を代表する一冊。奄美・沖縄の生物と文化の多様性を綿密なフィールドワークと論証をもとに展開している。学術書でありまがら、一般の読者にも読みやすい内容で、人間が自然の中で生きていく知恵の宝庫でもあることを教えてくれた。奄美・沖縄の研究者だけでなく、生物学・民俗学・考古学など、さまざまな分野に興味にある方々に必読の書である。

 琉球新報社とボーダーインクの出版活動が目立った一年でもあった。まずは琉球新報社。琉球新報社「ものづくりの邦」は、沖縄の元気な製造業百社を取り上げた好著。産業の基幹ともいえる製造業が沖縄でいかに頑張っており、日本のみならず世界的にも注目されていることを教えてくれる。おなじく琉球新報社「不屈 瀬長亀次郎日記第三部」は、瀬長亀次郎の日記を丹念に掘り起こし、解説をまじえながら復帰前と復帰直後の沖縄と、それに命がけで取り組んだ一政治家の姿を描き出している。まさしく米軍施政権下の沖縄を象徴する書といえるだろう。そして今年新しくシリーズ化された新報新書の「『琉球処分』を問う」、「薩摩侵攻400年 未来への羅針盤」、「それぞれの歩幅で~発達支援を考える」の三冊も新聞社ならではの書。硬質ながら読者を引き込んでいく力感が圧倒的であった。

 ボーダーインクでは聞き書き・島の生活誌が、安渓貴子・盛口満「うたいつぐ記憶」、蛯原一平・安渓遊地「いくさ世をこえて」、三輪大介・盛口満「木にならう」で完結した。古老を丹念に取材し、臨場感溢れる文章で展開したシリーズで、取材を受けた方の表情や語りまでもが紙面からわき上がってくるような書。久万田晋「沖縄の民俗芸能論」は、沖縄芸能を研究者としての視点で整理し、沖縄の民俗芸能を論じている。豊富な事例をもとに、臼太鼓やチョンダラー、エイサー、奄美の芸能なども扱われており、民俗芸能の幅広さと奥深さを教えてくれた。渡辺豪「私たちの教室からは米軍基地が見えます」は、普天間第二小学校が発行している『そてつ』の作文を掲載し、書いた方々のその後を取材してまとめ上げている。復帰から変わらない普天間の状況と、基地への切実な思いが伝わってくる。

 他に、吉成直樹「琉球の成立」(南方新社)は、旧石器時代から琉球国の成立までを論じた書。三山時代はなかったなど、衝撃的な内容で、琉球の歴史を琉球弧の視点からみた内容。そして原田禹雄「蕭崇業・謝杰 使琉球録」(榕樹書林)は、尚永王の冊封使として来琉し、一六世紀末の琉球を記録した使録の全訳注。著者のこれまで使琉球録に注いできた熱意とご労苦に敬意を表したい。

 沖縄戦関連では、文:ひめゆり平和祈念資料館、絵:三田圭介「絵本 ひめゆり」ひめゆり平和祈念資料館)が秀逸。楽しい学園生活に忍び寄ってくる戦争の影と悲惨な沖縄戦体験、そして戦後の沖縄までを小学校低学年から理解できるような文章とリアルでありながら柔らかいタッチの絵で表現している。高柳杉子「あけもどろの空」(子どもの未来社)は、普通に暮らす小学校低学年の子どもの視点で沖縄戦を描いている。須田慎太郎「本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること」(書籍情報社)は米軍基地ガイドと沖縄戦から現在へと続く沖縄の置かれた歴史的背景を詳細な文で綴っている。

 印象に残った本を書き記そう。小濱正博「翼に命を託して」、真境名佳子伝刊行委員会「琉球舞踊に生きて」(沖縄タイムス社)長濱良起「沖縄人世界一周 絆をつなぐ旅」(東洋企画)、儀間進「沖縄ことわざの窓」(沖縄文化社)、沖縄伝承話資料センター「沖縄伝承話の旅(中部編)」、(フォレスト)、長堂英吉「通詞 牧志朝忠の生涯」(ニライ社)、文:小嶺貴子、絵:磯崎千佳「与那国のまやーぐわぁ」(沖縄時事出版)、石井龍太「島瓦の考古学」(新典社)などである。

 また、出版界の新たな潮流である電子出版では南原明美「実話・地名笑い?!話」(コミチャン)。電子出版はこれからも点数が増えてくる、これからの展開に注目したい分野である。

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